日本の防衛産業
少し古い雑誌になりますが、週刊 東洋経済 2012年 1/21号から。
世界的に、戦争が認められている国では、軍事産業とか、もっと直接的には武器産業とか言われたりしますが、専守防衛しか認められていない日本では『防衛産業』という呼び方が一般的の様です。
この雑誌が発刊された当時は、日本の防衛産業にとって唯一の顧客は、防衛相・自衛隊でした。しかし、安倍政権になって、武器輸出三原則に関する新ルールが閣議決定され、一定の条件を満たせば輸出が認められるようになりました。
このことに関する是非、或いは、自衛隊は合憲か違憲かという議論はここではしませんが、日本の防衛産業にとっては、追い風といえるでしょう。
防衛予算は、年間約4兆6千億円。
2012年度の予算では、その45%(約2兆円)が自衛隊員の給与や固定費、55%(2.5兆円)が装備品の購入といった物件費。
さらに、物件費は、過去の年度の契約に基づき支払われる「歳出化経費(1兆6000億円:全体予算の約35%)」と、その年度の契約に基づき支払われる「一般物件費(約9500億円:全体予算の約35%)」とに分けられます。
装備品の購入といった物件費が55%と書いてあると、「武器の調達に2兆5千億円も使っているのか!?」と思いがちだが、実際には、装備品の調達・修理・整備、油の購入、隊員の教育訓練、施設整備、光熱水料等の営舎費、技術研究開発、周辺対策や在日米軍駐留費等の基地対策経費などにかかる経費も含まれ、下図の右のグラフを見ると、装備品等購入費は16.7%(4.6兆円なら約7700億円)となっています。
また、真ん中の機関別予算のグラフでは、陸上自衛隊約38.2%、海上自衛隊23.6%、航空自衛隊22.7%と、陸上自衛隊が突出しているようにも思えますが、陸上自衛隊は約14万人、海上自衛隊は約4.2万人、航空自衛隊は約4.3万人、幕僚監部など約2千人という隊員数の規模比で考えると、やはり装備費の差が大きく影響しているようです。
日本は周辺を海に囲まれており、まずは、敵国に制空権を取られないこと、領土に上陸させないことが重要ですから、海上自衛隊、航空自衛隊の重要性は非常に高いと言えますね。
余談ですが、基地対策費というのも、全体の9.3%とバカにならないですね..。
話を元に戻すと、以上から、防衛産業というのは、確かに大きな産業ではありますが、自動車市場約57兆円などと比較すると、大がかりな装備を扱うにしては1兆円という予算規模は決して大きいようには思えません。
やはり日常的に多くの人が利用する産業ではありませんので、よほど世界規模の大戦でも起こらない限り、市場の大きな拡大は見込めません。武器輸出三原則に関する新ルールによって、どの程度、防衛産業に影響が出るのかが今後の注目です。
さて、防衛関連製品をつくる主な企業ですが、東洋経済によりますと、
▼航空機・航空機関連部品
・三菱重工業(7011)
・川崎重工業(7012)
・富士重工業(7270)
・IHI(7013)
・新明和工業(7224)
▼艦艇
・三菱重工業(7011)
・川崎重工業(7012)
・三井造船(7003)
・函館どっく
▼戦車など車両
・三菱重工業(7011)
・コマツ(6301)
・日立製作所(6501)
▼武器、誘導弾、システムなど
・豊和工業(6203)
・IHIエアロスペース
・旭精機工業(6111)
・コマツ(6301)
・東芝(1109)
・日本製鋼所(5631)
・沖電気工業(6703)
・日本電気(NEC:6701)
▼需品、化学関連、衛生器材など
・神戸製鋼所(5406)
・帝国繊維(3302)
・クラレ(3405)
・ユニチカ(3103)
・東レ(3402)
・東洋紡(3101)
・藤倉航装
これらは、主だった企業の一部ですが、装備品の製造には多数の下請け企業が関わっていて、例えば航空機の生産では大企業が「主契約者(プライムコントラクター)」として防衛省と契約するものの、実際の製造にはベンダーと呼ばれる企業が関わっており、戦車(90式戦車)で約1300社、戦闘機(F15J)では1100社、護衛艦では約2500社ものベンダーが関わっており、その大部分が中小企業。
中小企業の中にはオンリーワンの技術を持つ企業もあり、その企業なくして生産が成り立たない場合もあるそうです。
近年は、尖閣諸島などを巡る中国との問題、北朝鮮の核開発問題など、日本の安全保障を巡る環境に大きな脅威があると騒がれ始めていますので、右肩下がりで削減一方だった防衛予算も少しは増加し、こうした中小企業の維持に繋がっていくかもしれません。
主な装備の予算ですが、輸送用ヘリが、1機あたり37億円、戦闘ヘリが52億円、海自の哨戒ヘリが57億円、次期主力戦闘機F35Aは200億円、ヘリコプター艦載護衛艦(DDH)は155億円、潜水艦(SS)は647億円、だそうです。
近年は、過去の不祥事などの反省から、競争入札が導入されるようになったそうですが、開発段階から無償で研究開発に携わっている企業が落札できず苦労が報われないケースが出ているなど、構造的問題もあり、必ずしも高利益を生む産業ではないようです。
さらに詳しく知りたい方は、週刊 東洋経済 2012年 1/21号をご覧ください。
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